エッセイ 第2回 ティピの教え 文/北山耕平

第2回 ティピの教え

文/北山耕平
  • Section 03人類史上もっとも美しい家
 なかでもティピは、人類史上もっとも実用的でシンプルで美しい家の形態として地球に生きる人が考え出したもののひとつではないでしょうか。長い柱になる棒以外は移動するのにも、どこかで新しく建てるにしても、コンパクトにまとめられて、実際にそこで暮らしてみると、快適で夏涼しくて、冬暖かく、過ごせます。
 はじめてティピでの生活を体験した人は、寝床に横になって、頭上にある煙出しから満天の星空を見つめたら、きっと自分でもひとつティピが欲しいと思うはずです。

 ティピは人の暮らす建物からすれば「ソフトハウス」の代表的なものです。モンゴルの遊牧民の暮らす「ゲル」もそうですね。釘と金槌と石と木で建てる家は「ハードハウス」といわれ、建てるのに時間がかかり、一旦建ててしまうと、移動するのにもたいへんです。
 平原インディアンも草原の遊牧民も、地球に優しい暮らしをするためにはソフトハウスが欠かせませんでした。歴史の教科書に書かれている縦穴住居も、形態からすればソフトハウスなのでしょう。
 円錐形の家を知っていますか?
 キャンプなど、テントのなか、寝袋で寝る喜びを知るあなたにはわかるでしょうが、ティピのなかで一度でも寝たことがある人にはソフトハウスがどれたけ地球に優しいかすでに知っているはずです。
 ソフトハウスには、あなたと外の世界を隔てる壁がありません。というより、壁を感じることがないのです。直線で仕切られたハードハウスには角がたくさんあり、それぞれの角は「時間」を指し示していると彼らは言います。ソフトハウスであるティピには、その時間がないのです。

 ソフトハウスのなかにいると、自分がそのまま自分を取り巻いている宇宙と一体化していきます。これは、キャンプなどでテントのなかで夜を過ごした人にはわかることでしょう。快適な場所で、美しく安全に設営されたテントのなか、寝袋で数日過ごしたら、自分が環境とひとつになり、時間を忘れ、いつしか宇宙ともつながるのを体験できるかもしれません。
長い棒以外はコンパクトにまとめられる。※写真はイメージです
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